消費者、取引先、従業員、株主にとって寝耳に水の事態が発覚しました。
今年最後の話は東芝の減損損失についてです。
減損処理については、筆者の(047)話 「SONYと三井物産の株主総会での実践勉強」でも触れております。

このニュースを12月27日早朝のTVで知った瞬間、筆者は東芝に大きな商談を仕掛けている企業の営業マンのことが頭に浮かびました。
思わぬことになったな!!  影響は避けられない、、と。
更に、歴史のある東芝の社会人野球部やトップリーグのラグビー部の存続を祈る気持ちになりました。
2015年に起こった会計不祥事を乗り越え、東芝はV字回復の道を進行中でした。
14,450人のリストラ、家電、パソコン事業の撤退、虎の子の東芝メディカルのキャノンへの売却など多くの犠牲の上での再出発だったのです。

V字回復の原動力はNAND型フラッシュメモリー半導体事業です。
2017年3月期は連結最終利益を1,450億円に上方修正したばかりでした。(前期は4,600億円の赤字)
株価は2月12日155円から12月15日の475円と3倍になりました。

再出発した東芝は引き続き電子力事業を主力事業に据えておりました。
その米国での原子力事業で減損損失のリスクを見抜けない思わぬ事態が発覚したのです。

2015年に起こった会計不祥事で、14,450人の人員削減を余儀なくされた東芝は歯を食いしばって野球部やラグビー部を存続させたと思うのです。
従業員を大量にリストラしておきながら、利益をあげない野球部、ラグビー部を何故存続させるのか?という大葛藤があったと思います。
筆者は存続させた日本的な判断は正しかったと思いました。
強い野球部が都市対抗野球に出て、東京ドームで応援すること、秩父宮ラグビー場で応援すること、それは社員の共通の喜びであることを経営者が知っていたからでしょう。
そのことは元社長岡村さんが「私の履歴書」に書いていました。
(筆者の(049)話「都市対抗野球と企業の社会貢献」もご参照ください)

そもそも押し迫った12月27日の朝1,000億円の減損発生のニュースがTVで流れました。
株価はストップ安寸前まで下げながら、夕方の記者会見を待ちました。
東芝子会社の米国WH(ウエスチィングハウス)が買収した原子力建設サービス会社S&W社の企業価値が大きくき損していることが判明したのです。
買収価格と実際の企業価値の差額「のれん」代を105億円と読んでいたが、数千億円に及ぶ可能性がでてきたというのです。

IT業界を例に分かりやすく解説すると、買収したSI請負子会社が、顧客に請求できない膨大なコストオーバーラン要件を抱えていた!!というような話です。
この子会社を傘下にいれていなければ対岸の火事であったのですが、当時の経営者が開発案件の一元管理を狙っての買収判断が裏目にでてしまったのです。結果論です。

減損損失は1,000億円規模を遥かに超える数千億円規模ということで、目下会長達が米国に行きs精査中でいくらの損金計上になるのか?まだ分からない!!
株式市場は不透明を嫌うのです。28日も、29日も株価は下がり続けました。
発覚直前対比で約半値になりました。
一番の懸念は債務超過であり、9月末現在の東芝の自己資本は3,600億円です。

会計不祥事を起こした東芝は2015年9月15日をもって「特設注意市場銘柄」に指定されることになりました。不名誉極まりないことです。
今回の事態で「特設注意市場銘柄」の指定継続が決まり、当該指定から1年6ヵ月を経過した日、
2017年3月15日以降に再提出する内部管理体制確認書の内容などを東京と名古屋両証券取引所が確認して、内部管理体制に改善がなされなかったと認められた場合には、東芝株は上場廃止となるのです。

レジェンド営業塾

減損損失会計とは、資産価値の下振れを反映することで、
企業が保有する資産の価値が当初の想定と比べ大きく下回った場合
バランスシート(BS)上の価値を現実の収益性にみ合った水準まで修正し、損益計算書(PL)上に特別損失として計上する会計処理のことです。
(ただし、東芝のように米国会計基準や国際会計基準を採用している場合は異なります、以下の「減損テスト」参照)
現金流出は伴わないが、自己資本比率の低下など財務悪化につながるのです。
中小企業には義務付けられていません。

上場企業を担当する営業は、日頃からアンテナを高くしてお客様に減損損失が発生するかどうか?注視していく必要があります。
日本企業はグローバルな企業買収や投資を続けています。激しい経済環境の変化の中で何が起こるか?分かりません。
常に動向を見ていく必要性が高まっているのです。
前期決算でグローバルな資源価格の下落で大きな減損処理を余儀なくされた三菱商事や三井物産が参考事例になるでしょう。

企業は決算期ごとに保有資産の損失発生の可能性を判断する「減損テスト」を実施します。
上場株式など時価のある資産は、取得時より価格が5割以上下落すると下がった分の損失計上が必要となる。
時価のない資産は、その資産が将来にわたって生み出すキャッシュフローの見通しに基づき現在の価値を算出して減損すべきかを判断する。
減損損失は日本の会計基準では特別損失に計上され最終損益のみを押し下げるが、東芝のように
米国会計基準や国際会計基準を採用している場合は、営業費用に計上され、本業のもうけを示す営業損益の段階から影響がでるのです。(12月29日日経より抜粋)

それにしても、正月どころでなくなってしまった東芝グループで一生懸命頑張っている真面目な社員が気の毒でなりません。
東芝の復活を願ってやみません。