(054話)は、2017年の直木賞+本屋大賞と史上初のダブル受賞した作家恩田陸さんの著書「蜜蜂と遠雷」を読んで感じたことに触れます。

3年に1度開催される浜松ピアノ国際コンクールをモデルに、若き才能と運命、心の動きそして審査員の心理を描き切った507ページの長編青春群像小説。

型にはまった演奏や技巧的にうまいだけの演奏ではなく真に個性的な才能を「養蜂家の息子で自宅にピアノを持たない風間塵」という少年コンテスタントの演奏を触媒として2週間に亘るコンクールを通して若い才能あるピアニスト達が開花していった、、、というストーリー。とりわけ、天才少女としてデビューするも突然コンサートをドタキャンして消えてしまってピアノが弾けなくなった栄伝亜夜がこのコンクールで風間塵と出会って触媒し自分は演奏家として生きていくのだ!!という強い意志を持つことができた過程が面白い。
いわば、主演男優が3位になった風間塵16歳で主演女優が2位になった栄伝亜夜20歳、優勝した名門ジュリアード音楽院のエリート、マサル・C・レウ”ィ・アナトール19歳は助演。
音楽を奏でているのは指ではなく「心」だという。

読んでいると、営業マンが大事な商談で勝負のプレゼンやデモをする準備や心理に似ている?と感じさせるのです。

本著書でのピアノコンクールの構成;
様々な国籍の若者が集まって勝ち残り方式で優勝を争う
・第一次予選20分で3曲のセットを演奏 24名が合格
・第二次予選49分で5曲のセットを演奏 12名が合格
・第三次予選60分で4曲のセットを演奏  6名が合格
・本選 6名がオーケストラとコンチェルトを演奏して優勝が決まる

構想12年、取材11年、執筆7年をかけた作品。
相当な時間を掛けて多くの曲目とその情景を研究した形跡を感じる。コンテスタントの設定と曲の構造を研究して周到に伏線を張られた巧みな構成、作曲家でもなく演奏家でもない著者の調査力、描写力に感服。

詳細な小説設計図を作成し入念な取材をすることで知られた山崎豊子さんを思い浮かべます。
山崎豊子さんの小説構成設計図など構想に掛ける準備は有名で、実物の遺品展示会を観たことを思い出します。
作家ってみなこのように設計図を書いて臨んでいるのか?興味が湧きます!!
そこで村上春樹さんはどうなのか?
読み進めていくうちに謎の全貌が明らかにされていくといった推理小説風の手法と世界を異にした2人の主人公によって語られるパラレル進行する作風の村上春樹さんはさぞかし事前の設計図を書いているのではないか?
と思うのです。あれだけの重構造・パラレル進行を頭だけでは書けないだろうと。
あるインタビュアの質問に「用意していない」と語ったのを思い出す。これも驚きで、いずれにせよ天才なんです。
その意味では、囲碁将棋の天才の世界と同じでは。

この本を読んで筆者が印象的に残った所は;
音楽というその場限りではかない一過性のものを通して永遠に触れているものだと思わずにいられない。
指から生まれるのは刹那刹那に消えていく音符
観客はステージの上のピアニストを見つめ演奏を聴きながら自分をみている、自分のこれまでの人生、これまでの軌跡がステージの上に映し出されているのを目撃している。
ここの所がとても心に響き納得したのです。
筆者かねてから、音楽は人の心を過去に向かって進ませる力があると感じています。
オーケストラを聴きにコンサートホールに集まる聴衆は圧倒的に中高年である。
暗に自分のこれまでの人生、これまでの軌跡がステージの上に映し出されているのを目撃しているのかも知れない。

余談ではありますが、この夏松本で開催されるセイジ・オザワ松本フェスティバルで、
小澤征爾さんとピアニストの内田光子さんが、サイトウ・キネンオーケストラとベートーベンピアノ協奏曲3番を
協演します。二度と聴けない協演かも知れないということでチケットが一瞬で売れ切れたとのこと。間違いなく多くが中高年聴衆でしょう。

レジェンド営業塾

筆者は(013)話で「そのプレゼン&デモでお客さんの心を捉えることできますか?」を書きました。

本書のコンテスタントの中に、音大出身で妻子持ちで楽器店に勤務する28歳高島明石というサラリーマンピアニストが登場します。
高島明石は、長い時間譜面を読みイメージ作りに時間を費やし練習し曲が仕上がってから「これで良いのか」
と曲と距離をおいて寝かせる時間が必要なことに気が付いたのです。そうすることで曲への理解が深まる、、、と
ストーリーの中では、第二次予選で落選したが、日本人作曲の曲の解釈が優れていたと評価され、奨励賞と日本人作曲家演奏賞を受賞しました。

我々法人営業の準備も同じではないですか!!
営業のプレゼンテーションやデモで最も大事なことは、
お客様の事前期待は何か?であり、この掘り下げ次第で準備の質が決まります。